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「うん、わかった」
そんな会話をしながら二人はエレベーターに乗り、最上階へと辿り着いた。守は迷わず進んでとある部屋のインターホンを押す。するとすぐに、顔に刀傷を持った大男が部屋から現れた。
「あんたらが山下さんかい? 紹介状は?」
「こちらです」
「ふぅむ、確かに。しかしボスの言うとおり、本当に連れがいるとはな…。まったく、今日は変わった客が多いぜ。いいか、そのガキはお前の後ろに座らせておけ。それが守れないようならいかにボスの客と言えど容赦はできん。分かってるな?」
大男は睨みを利かせながらそう言った。守は無表情に答える。
「わかっています。いかにボスの紹介といえど、特別な対応は存在しない」
「よし、入れ」
中へと案内された守は上着を脱ぐと早速麻雀を打ち始めた。他三人は皆高級そうなスーツに身を包んだ紳士ばかりで、一人はテレビでお馴染みの芸能人であった。もう一人は新聞で見たことのある某社の社長。となれば必然、残る一人が裏メンバーということなのだろう。裏メンバーは守の下家、右手の側に座っていた。
つつじは言われたとおり守の後ろで大人しく座っているが、その目は守の対面にいる芸能人に釘付けらしい。
あぁ、確か、つつじの好きなドラマに出演していたっけ。
守はそんな風に別のことを考えながら、漠然と対局を進めて行った。それこそ何も考えず、適当にツモと打牌を繰り返すばかり。当然、終盤には一人沈みの状況が出来上がる。
それで良かった。いきなりイカサマを仕掛けるよりも、負けが込んでから仕掛ける方が自然である。負けを取り返す為に、つい――それは天草組の目から見ても、客の目から見ても自然。自然の流れを生むからこそ、アクシデントは最小限に抑えられる。
この考え方はOASISの裏の仕事を始めた時、紅に何度も言われていたことだった。紅の経験上得た心得であるらしい。
そもそも、OASISの裏の活動は守たちが来るまで紅が一人で行っていたらしいのだ。今でこそ裏方に徹しているが、彼女もまた、殺しのプロなのである。毒針のような暗器が得意だと自負していて、その毒針という言葉があまりにも彼女に似合うものだから、守はそれを聞いた時背筋の凍るような戦慄を覚えた。
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