クラッシュモブズ

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「礼にはおよばぬ」といった類のセリフを連中はよく口走るのだが、そのわりにぼくら人間サイドの感謝の表現がうすいと、たちまちへそを曲げて妙に葛藤しはじめてしまう。“俺はいったい何のために戦っているんだ”ってな具合に。そこでぼくら人間はせめてもの誠意として、彼ら・彼女らが満足げに去って行くまでは決して先に帰らないという暗黙のルールを作った。その際には「ありがとう」と声をかけながらゆっくりと手をふり続けなければならない。契約でも掟でもない、飽くまでも“暗黙の了解”なのだが、そうでもしなければ連中はすねてひきこもってしまい、ヘタをすれば人類を敵視しだすらしいので、自分たちの身を守るためにも必要な配慮なのだ。  しかしこの“先に帰っちゃいけないルール”を課されたぼくらとしては、あまり些細なことで救いの手をさしのべられてはたまったものではないのである。遊ぶ予定があるときなどは、申し訳ないのだがずっとイライラしながら連中が引きあげるのを待っている。おまけにいちいち「ありがとう」を連呼しながらゆっくりと手をふり続けなければならない。こんなことが立て続けに起こると、声は涸れるわ肘や肩は腱鞘炎になるわで、助けられることがじつに億劫になってくるのだ。  向こうはせっかく人助けを買って出てくれているというのに、まったく罰あたりな話だ。  生身の人間というものはこれほどまでにわがままで軟弱なのだ。そういうことにしておこう。  余談はさておき、スーパーヒーローのるつぼにおけるぼくの日常に話をもどす。  算数にしろ何にしろ、頭をつかう授業ならほおづえついてりゃやり過ごせる。  悲惨なのは体育の授業だ。  もともとが体力に恵まれた連中ばかりだから、それを活かした科目ともなるとその様相は壮絶を極める。  お勉強はからっきしだが腕っぷしにはめっぽう自信のある絶倫バルクなどはここぞとばかり躍起になる。ぼくが必死にあえいで走るのを尻目に、バルクはその巨体に似合わぬ俊足とスタミナでトラックを駆けまわり、文字どおり校庭に旋風を巻き起こす。これが気象に影響をおよぼすらしく、ウェザーマンが呼び出されて空模様を修正してまわる羽目になる。  今日は絶倫バルクがもっとも得意とする砲丸投げだ。  ポテン、ポテン、ぽとり。  三投ばかりぼくがヘナチョコな前フリ役をつとめる。
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