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バルクは地べたに転がる恐ろしく重い砲丸をビー玉でもあつかうかのようにつまはじく。
きっと小バカにしてるんだろう。
すかさずウィッグマンとファットマンとがぼくの傍らに寄り添う。彼らは、人の痛みがわかることでは右に出るものがいないと定評のあるふたりである。右に出るものがいないと称されるヒーローがふたりいたのでは、どちらかが右に出ざるを得ないんじゃないかというもどかしさはあるが、とにかく彼らはやさしくぼくを励ましてくれる。
しかし、このふたりにはさまれて元気づけられるのはどうにも恥ずかしくていけない。彼らは、しょげかえった(と見なされた)ぼくとともに肩を組み、か細いハーモニーでピーターポール&マリーの歌などを口ずさんで身体をくねらせてくれる。
恥ずかしくないわけがない。
とりわけウィッグマンと顔をあわせる際はいつも、どんよりとした違和感にさいなまれる。原因は彼の頭にある。豊かにそよぐ頭頂部の黒髪に対して、後頭部からもみあげにかけてはロマンスグレーの毛をのぞかせている。ウィッグマンと名乗っているからには頭頂部のふさふさはカツラなのだろうが、それにしても対峙した者に無用な気づかいを強いるあたり、ヒーローらしからぬ無頓着さである。
さて、絶倫バルクだ。ぼくの放った砲丸をいとも簡単にはじき飛ばしたバルクが持ち出したのは、巨大な鉄球だった。重機でなければ持ち上げられないようなそのドデカい球体をバルクはいとも簡単に肩口へのせた。それからいきなり全身のあらゆる箇所を怒張させると、喉の奥から轟音を発して一気にそれを放り投げた。
鉄球はあっと言う間に雲を切り裂き、青空の彼方へと吸い込まれていった。
みんなしばらくは鉄球の飛んでいった先を眺めていたが、しばらくするとそのまま真うしろに身体の向きをかえて来たるべきものを待つ。
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