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やがて、上空に黒い点が現れる。その点は見る見る巨大になっていき、ある程度まで迫ってくると、それがさっきバルクが投げた巨大な鉄球であることがわかる。しかも今回はとんでもないオマケつきだ。
「おいおいおい、まだ2周目だっつーのに!」さっき飛んでったウェポンマンが鉄球にへばりついている。「これ、どうせまたあいつだろ! 途中で――」
地響き。そして砂煙。
地球を1周してもどってきた鉄球はウェポンマンもろとも校庭にめり込んだ。
数秒後、レーザー銃で鉄球を粉砕したウェポンマンが巨大なくぼみから這い出してくる。「……途中でこの球にぶつかりかけた飛行機3機と渡り鳥の群れ、助けたからさ」ティーチウーマンに視線をおくる。「もう1周はまけてくださいよ」
ティーチウーマンは小首をかしげる。「あなたはか弱い人間と下等な動物を助けるために当然のことをしただけ」空に向けて指を1本立てる。「ルールはルールよ」
忌々しそうに顔をゆがめるウェポンマンに対して、ティーチウーマンは指を立てたままアゴをクイッと跳ねあげ無言でうながす。
「オッケー…」ため息まじりに返事をするウェポンマンの傍らに、ウィッグマンとファットマンがすかさず寄り添い、『花はどこへ行った』をうたいはじめる。
「俺はいいよ!」
言い残すと、ウェポンマンはすぐさま飛び立った。
ティーチウーマンは、鉄の破片が散らばる、くぼんだグランドに目を落とす。「じゃあみんな、体育館に入って! 格技の授業に変更します」
スーパーヒーローたちは体育館と称されるコロシアム型の建物に移動する。ティーチウーマンに追い立てられるように、ぼくもそのあとに続く。
スーパーヒーローだらけの世の中になって、“か弱い人間”であるぼくがかよう学校とヒーローたちの養成機関とはひとつに統合された。お兄ちゃんが小学生のころにはもうそうなっていたらしい。お父さんやお母さんのころは、スーパーヒーローは世を忍ぶ仮の姿でクラスにこっそり紛れている程度だったそうだ。
今や“世を忍ぶ仮の姿”など必要のなくなったヒーローたちは、すっかり大っぴらにその生態をさらすようになり、むしろ希少種になってしまったぼくらと共存する形をとっている。
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