クラッシュモブズ

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 だからといって連中とおなじカリキュラムを押しつけられるのもいかがなものかと思うのだが、とりわけ意見を交わす場を与えられることもなく、笑顔と筋肉にうながされるまま、連中の言いなりになって日々を過ごしている。  こうしてコロシアム型に改装された体育館で、人間ばなれした身体能力の連中にまじって“格技の授業”と称する実戦さながらのどつき合いに参加しなければならないのも、スーパーヒーロー様たちのけがれなき善意の賜物なのである。  ぼくがこの格技の授業で何よりうんざりするのが、ここで起きた出来事に関する一切のことは口外無用、秘密を守らなければいけないということだ。たしか、お兄ちゃんにもこの守秘義務とかいうやつが課されていたはずだ。 「では各自、パートナーを見つけたらお互いに握手をして!」皇帝が鎮座するような席、いわばスタンドのVIPシートにあたる場所からティーチウーマンが声を張り上げる。  正直なことが売りのオネストマンはウィッグマンと対峙し、時間をあやつるタイムキッドはファットマンと握手を交わす。  そしてぼくのまえにのそりと現れたのは、絶倫バルクだった。 「はい、お互いかまえて」ティーチウーマンが身をのり出す。「はじめ!」 「あなたそれ、ヅラですよね?」オネストマンが即座に声を発する。傷ついたウィッグマンは頭をおさえ、うずくまる。オネストマンはすぐさま「せいやっ!」と追撃の一発を寸止めで当てると、残心のかまえで見得を切る。 「はいそこ、一本!」ティーチウーマンがふたりを指さして叫ぶ。  タイムキッド対ファットマンは予想どおりの展開だ。まばたきをするたび、ファットマンの顔は腫れていく。グレーのボディスーツに隠れてはいるが、きっとあの下もアザだらけになっていることだろう。どういうことかは言うまでもない。タイムキッドが時間を止めて、その隙にファットマンをタコ殴りにしているのだ。
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