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それにしても、ファットマンのあのボディスーツの色はどうにかならないものだろうか。太った身体からふき出る汗のせいで脇や胸元や背中にしみがにじんで、ことさらデブ感が際立ってしまっている。グレーのボディスーツなどやめて、いっそ黒一色にすれば汗も目立たず、身体も多少は締まって見えるだろうに。
頬を揺らしながら、ファットマンは見えない攻撃をただただ受け続けている。まぶたは腫れ、鼻からも唇からも血がしたたっている。が、ファットマンは決して倒れない。
やがて、タイムキッドがまばらに姿を現しはじめる。肩で息をするそのグリーンの小柄な戦士は、いくぶんやつれて見える。
なにしろ、すべてのものが止まっているあいだにめまぐるしく動き回っているのだ。スーパーヒーローと言えども身体はそれだけ疲弊するのだろう。時間をコントロールすることに長けてはいても、その肉体は時間の支配からは抜け出せないということだ。
ファットマンは明らかに動きの鈍ったタイムキッドを捕まえると、そのか細い胴に腕をまわしてギリギリと締め上げる。……いや、よく見ると締め上げるというよりは抱きついてしなだれかかり、荒い呼吸を繰り返しているだけだ。こってりとした熱い息と汗でぬめった巨体とがタイムキッドの小さな身体をおおう。ただそれだけ。
タイムキッドは「まいった!」と悲鳴をあげた。
「そこ、それまで!」ティーチウーマンの声がとどろく。「ファットマン一本!」
ファットマンはそっと相手からはなれると、「大丈夫?」とハンカチをさし出す。顔面を赤黒く腫らしたファットマンに対し、傷ひとつ負っていないタイムキッド。
「そりゃこっちのセリフだよ」タイムキッドはぐしょぐしょに湿ったハンカチを恭しく受けとった。
どうやらぼくの考えはとんだ見当はずれだったようだ。彼はファットマンという存在を全うするため、あえてデブであることを前面に押し出しているのだ。ぼくは勝手な価値観を持ち出して、やれ汗じみが目立たぬようにだとか、身体が締まって見えるようにとか、ファットマンとして生きる彼からしてみればマイナスの要素でしかないことばかりを当てはめようとしていたのだ。
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