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「これ! 芳菊丸、母を置いて何処へ行く、話はまだ終わってはおりませぬぞ!! 」
ヒー!ってなもので、義元は後ろから叫ぶ寿桂尼の言葉を聞こえないフリをして龍王丸の所にタタタっと駆け寄る
「その様な所で何をしておるのじゃ?」
そう背中から語りかけられた龍王丸はクルリと振り向く
すると少し顔を赤らめているもののいつもの優しい笑顔で見つめる義元がいた
広間の奥の方で祖母の寿桂尼が何やら騒がしい様子だが本能的にそれは気付いていない事にする龍王丸
「夜風が心地よく月が綺麗なのです。父上様」
「ほう、さようか…どれどれ」
腰を落として龍王丸の目線に合わせて夜空を見上げると三日月がまるで回りの星々を率いて夜空を彩っているかのようだった
澄んだ夜風が頬を優しく撫で、淡い月明かりを浴びているとなんとも心地良い一時を体感できる
心地良い一時を満喫していると、おもむろに…
「父上様、少々お酒の香りがきつうございます。今宵は少し乱れましたか?」
「ん、さよか?それほど乱れ…」
龍王丸の問いに答えようとする義元の言葉をかぶせて遮るかのように後ろから寿桂尼の声がする
「流石は龍王丸じゃ、よぉーわかっておる。」
ハッと真後ろに振り返ると寿桂尼が見下ろしていた
「叔母上様、龍王丸は眠くなりもうした。」
「フム、龍王丸や父に付き合うことはないぞよ、ゆるりと身体を休めよ」
「はい、それでは父上様、叔母上様、失礼いたします。」
「あ…いや、龍王丸?もそっと父のそばに…」
ピシャリ!
龍王丸はササーッと自室へ向かうと後ろにいる義元が名残惜しそうに話しかけてくるが、その義元の額ら辺から扇子で叩かれたような音が聞こえてくる
しかし龍王丸は何も聞こえないフリをし、その場から立ち去る
一瞬でもとどまり振り向こうものならいらぬ巻き添いをくらいそうなのでタタタ!っとその場を離れる
その姿は先刻龍王丸に駆け寄ってきた義元そっくりだった…
そんな龍王丸を見てうっすらと微笑む寿桂尼だが、それはほんの束の間の出来事で、すぐに冷たい表情になり義元を見下ろす
「さて芳菊丸よ、母の言葉をしかと肝に銘じておきなさい。今川家の当主が一合戦の勝利に浮かれはなりませんぞ!そもそも…」
酒に酔っている義元同様に顔を赤らめている寿桂尼の小言は暫く続いた
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