26人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
美百合は堪り兼ねて、プッとふきだす。
「何が可笑しい?」
「あなた……、面白い……。ほんと……、見た目に寄らず……」
ブワッハッハと大口開けて笑いそうになり、さすがに初回のデートでそれはマズイだろうと、無理やりこらえていたら、呼吸困難のアルパカみたいなしゃべり方になった。
「見た目は……、クールで、完璧主義で、無感情なロボットみないなのに、しゃべってみると、会話のピントずれてたり、皮肉言ったり……、とても人間らしい」
いや、流行りだから、アルパカに例えてみたのだが、この人は動物に例えると何だろう。
真剣に見つめると笑いも引っ込む。それぐらい迫力がある。
そうだ。美しい黒ヒョウだ。
髪も目も薄い茶色なのに、何故だろう。全身をまとう色がビロードの黒。
「あなたの顔……、とても綺麗」
思わずまじまじと身惚れてしまった。
「そんなに見るな」
照れたようにうっすら頬を染める龍一は、ちょっと可愛くもある。
「ねぇ。ハーフなんでしょ?」
「母がロシア人だ」
絵に描いたような現実だ。
この人のお母さんなら、さぞかしゴージャスな美人さんだろう。
「会ってみたいな……」
つい漏れた言葉に、
「会わせられない」
龍一の言葉は、刺さるほど冷たい。
反射で憎まれ口はたたいたが、さすがに落ち込んだ。
「わかってるよ、そのぐらい」
でも龍一は続けた。
「もうこの世にはいない。死んだんだ」
あまりにもやさしい口調で告げるのに驚かされた。
もしかして亡くなったのは最近なのだろうか。
「気にしなくていい」
相変わらずクールになりきれない龍一は、やさしく続けてくれる。
うん、うれしい。よし、今日はもう、徹底的に甘えちゃおう。
最初のコメントを投稿しよう!