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「え?」
しかし現実は、龍一のクールなキャラクターを一変させるほどの、どん引き顔から始まった。
いやだから、冗談だから……。
そのすんごく蔑んだ目をするのはやめてほしいな。
「……今、『望みを言え』って……。だから、お姫様抱っこ……」
バツが悪いことこの上なくて、引っ込みもつかず口の中でゴニョゴニョとつぶやく。
すると、一瞬後には美百合の身体がふわりと浮いた。
「うひゃおぉぅ!」
とわけのわからない叫びが出るほど、本当に一瞬のうちに、それも軽々と、美百合の身体は宙に浮いた。
逆バンジーも真っ青だ。
でも上空から見下ろす風景はまるで観覧車。
こんな高い位置から周りを見たことがない美百合は、とりあえずキョロキョロと景色を楽しむ。
周囲には、龍一よりも全然格好よくない男を連れたバカップルや、家族連れがこちらを見ている。
するとこの観覧車、どんどん前に進んでる?
いや龍一が美百合を抱き上げたまま、ズカズカと歩いているのだ!
ようやく思考が現実に帰ってきた美百合は、自分が今まさしく龍一に『お姫様抱っこ』をされている現実を理解する。
まるで世界中に美百合のことを見せ付けるように、ためらいなく腕に抱えて歩く龍一は、クラクラするほど魅力的で、一瞬、このまま死んでもいいとさえ思った。
いやいや。
そう簡単に死んじゃうわけにもいかないので、
「ちょっとー、冗談に決まってんじゃん! 降ろしてよ」
パニックを悟られないよう、怒ったように言ってみる。
「くだらない冗談は大嫌いだ。俺に冗談が通じるなんて思うな」
思いもかけないドアップで見てしまった龍一の顔は、そりゃもう泣きたくなるほどの美しさで、
「ごめんなさい。もう冗談言わないから……。だから、降ろして。こんなの恥ずかし過ぎる」
とつっかえつっかえ訴えた。
ホント、泣きたくなるぐらいの美しさって、こういう顔のことを言うのだ。
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