Tue.

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ホテルでの正式なディナーなんて、美百合は実は初めてだ。 父親は小さい時から忙しくて、美百合にかまうキャラクターではなかったし、母親は身体が弱かった。 家出同然に自宅を飛び出してからは、日々を生活するのに一杯一杯で、贅沢な外食なんぞ、精々ラーメンがいいところだ。 だからパスタが前菜メニューだなんてことも、当然知らなくて、 「好きなものを、どうぞ」 とやさしく勧める龍一の言葉に甘えて、パスタばっかり何種類も頼んでしまった。 でも龍一は、非難もしなければ侮蔑もしない。 表情ひとつ変えずに、ただ美百合に合わせて同じものと、飲み物だけは上等のワインを頼んでくれた。 ソースが違えば、パスタばかりでも結構いける。 正面には絵画じゃないかと疑いたくなる美しい人。 なにもかもがすばらしくて夢のようで、美百合はうっとりと至福の時間を堪能した。 そんな食事があらかた片付いた頃、龍一がポケットから、おもむろに何かを取り出して、テーブルの上にカチャリと置く。 美百合が目を見張ると、 「男女の駆け引きとか、ロマンチックな演出とかは苦手だから、この際すべて省いて率直に言おう」 龍一の手の中から現れたのは、金打ちしたナンバーも豪奢な部屋の鍵だ。 「お前と寝たい」
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