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じゃあ、さっきのセリフはみんな嘘だったの!
私をからかうためだけに、龍一はこんな凝ったシチュエーションを作り上げたというのか。
美百合は、こめかみの辺りで何かが切れる音を聞いた。
「そうね、私は誰とでも寝る尻軽女よ」
立ちあがると、美百合は龍一の側まで歩み寄った。
龍一は余裕の眼差しで美百合の行動を見ている。
手を伸ばして、真っ先に触れたワイングラスを龍一の頭の上で傾けた。
頭から赤ワインの洗礼を浴びた龍一は、それでもまったく動じた様子も見せず、顎をあげて美百合をゆっくりと見上げる。
「美味しいね。出来れば口から飲みたかった」
薄茶の髪からポタポタ垂れる雫越しの龍一は、それこそ水も滴るいい男を地でやっていて、美百合は、なんだか泣きたくなった。
ここまで来たら勢いだ。
次に触れたのが、少し残ったスパゲッティ・アラビアータの皿。
『アラビアータ』は確かイタリア語で『怒り』って意味だ。
「パスタも頭からどうぞ」
これも頭からぶちまける。
時間をおいてもダマになることを知らない上質のパスタは、見事に龍一の頭から『のれん』のようにぶら下がった。
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