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カッカする頭は、いくら歩いても冷える気がしない。
それでも後ろから走ってくる、美百合とはスライドの違う足音だけはちゃんと聞こえていた。
頭から追い出すつもりが、つい習慣で探してしまう龍一の気配に、美百合はあまりにも、自分が惨めで泣けてきて、どうしようもない。
こちらは全力の大股歩きのはずなのに、簡単に追いつかれ横に並ばれて、
「アバズレに、まだ何か用?」
顔も向けずに言い捨てた。
とにかく悔しくて仕方がない。
とっておきのミュールなんか履いてこずに、スニーカーにしておけばよかった。
「時間も遅いし、送るよ」
何を今さら、心配したような口をきくのか。
「ヤル相手探してるの! 邪魔しないで」
こうなったら徹底的に『アバズレ』を演じてやる。もう実際にそうなったって構わない。
「悪かった。こんなつもりじゃなかった。頼むから車まで戻っ……」
「触らないで!」
つかもうとした龍一の手を、腕を振って拒絶した。
振り払った拍子に見えた龍一の顔は、本当に心底こまっていて、龍一にこんな顔をさせる自分が、ますますイヤになって、泥になって消えてしまいたかった。
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