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ズンズンズンズン。
ズンズンズンズン。
無言で歩く美百合の後ろから、龍一が所在なげについてくる。
ズン、タッタン、ズン、タッタン。
ズン、タッタン、ズン、タッタン。
美百合のリズムがエイトビートのロックなら、龍一の足音は三拍子のスローワルツなのが余計に腹が立つ。
なんで歩いているだけで、この人はこんなに優雅なのだろう。
なんでこんなに格好いいのだろう。
なんで憎めないだろう。
……なんでこんなに好きなのだろう。
「ここ……、どこ……」
美百合はついに足を止めた。
だってやっぱり諦められない。
思い切って龍一を振り返れば、
「おいで」
やさしいこの人は腕を広げて呼んでくれる。
たとえそこに恋愛感情など無くても、この人のやさしさは、こうやって誰にでも変わらなく発揮されるものなんだ。
それを誤解して期待してしまったのは、所詮、こちらの勝手な妄想。
それを美百合に教えるために、龍一はさっきみたいなマネをした。
ようやく理解できて、美百合は子どものように泣いて、龍一に肩を抱かれて車に戻った。
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