Tue.

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車の中で、美百合は紡ぎだす言葉もなくうつむいていると、 「俺は、仕事の関係上、誰かと親しくなったり、ましてや恋人なんかつくれないんだ」 と龍一が言った。 慰めにしたって、もう少しマシな言い訳があるだろうと思ったが、さすがにまだ、いつもの調子は出ない。 龍一から漂うワインとトマトソースの匂いが、美百合の罪悪感をチクチクと刺激する。 「そんな仕事知らない。芸能人かなんかなの?」 美百合が口の中でボソボソ問うと、 「まぁ、そんなようなもん」 何がおかしいのか、龍一は苦笑しながら答えた。 「『俺は誰のものにもなりません。皆さんのりゅういちです』みたいな?」 美百合は皮肉たっぷりに言ってみた。 戯れにも、けしてその胸のうちを明かさない男。 側にいればいるほど、寂しさだけが募る相手。 こんな男を相手に恋をしたことが、そもそもの間違いだったのだろうか。 龍一は落ち着かなげに車のミラーで車外を確認すると、何を見たのか、早口で問うた。 「お前、誰かに狙われてるだろ?」 「はぁ?」 例え冗談だとしてもヘタクソすぎる。 この気まずい空気を何とか変えたいのだろうが、残念ながら逆効果だ。 「何言ってんの? そんな訳ないじゃない」 なんだか、ますますムカムカしてくる。 「守りたいんだ」 意味不明だし。 「気がないなら……」 ここ大事。 ここで否定してくれたら、もうどんなことだって許すのに……。 でもやっぱり龍一は無言で、 「ほっといてよ」 美百合の言葉をただ受け止めた。
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