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「とめて!! 着いたからとめてって!」
自宅を教えた覚えなど微塵もないのに、この完璧な人は、どうやら下調べもばっちりらしく、見事に美百合のボロアパートまで送り届けてくれた。
道案内なんかせずに、ふたりで道に迷ったことを理由にしてでも、もう少し一緒にいたかったのに。
デートに出る前から、美百合を送り届ける手はずまで整えていたのかと思ったら、さすがにその冷たい仕事ぶりに落ち込んだ。
もう一度、龍一の顔を見る元気も出ず、礼も言わずに車から降りて、部屋へと駆け込んだ。
当然、部屋へ帰ってから、ベッドの中で大泣きするつもりだ。
明日はきっと垂れパンダだろう。だけど構いやしない。
明日の朝、腫れ上がった美百合の目と顔を見て、龍一だって少しぐらい罪悪感を抱けばいいのだ。
けれど、帰った美百合が、隣屋に声を漏らさないためにつけたテレビでは、涙もひっこむショックなニュースが報道されていた。
「あの迫田博文弁護士が、またしても疑惑深まる容疑者に無罪判決を与えました。
婦女暴行容疑で送検された尾藤信也被告に無罪です。無罪判決が出ました。迫田弁護士、驚くべき手腕です」
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