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乱暴にドアを叩く音がした。
でも美百合には小さな心臓の音の方が大事。
膝ごと自分を抱きしめる。
――ドンドンドン
静かな鼓動にノイズが入る。
――ドンドンドン
美百合の中の母親の影が崩れていく。
「待って」
と伸ばした指先は、真っ暗な闇だけを無情に引っ掻いた。
「ママ、ねえ待ってよ」
一気に溢れ出した涙は、
ピポーン、ピポン、ピポーン!
けたたましい電子音に途切れさせられた。
一体なにが起こったのかと、美百合は一瞬、世界を無くした。
キョロキョロと辺りを見回す美百合の鼓膜に、またもインターフォンを連打するぶしつけな音。
重い体をずるずると、引きずるようにしてドアまで歩いてスコープを覗くと、そこに立っていたのは龍一だった。
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