Wed.

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頑丈なだけが取り柄のサビの浮いた鉄扉を、チェーンを解かないまま少しだけ開けて、 「何の用?」 美百合は聞いた。 昨日の龍一のひどいやり様は、少しずつ美百合の記憶に蘇ってはきたけれど、それより何より、今はただ、放っておいて欲しかった。 闇の中でママが消えてしまう。 「いや、いるならいいんだ」 相も変わらず龍一の言葉は意味不明だ。 「何言ってんの? 意味わかんない」 自分にできる、最高に醜い顔で言ってやった。 「バカじゃないの?」 しかし龍一はめげる様子もなく、美百合に告げる。 「俺、ここに居るから、何かあったらすぐ呼べ」 瞬間、美百合の頭に血がのぼった。 大切な母親との時間を邪魔された上に、これ以上まだ妨害するというのか! 「だから、何言ってんのよ? 迷惑なの、さっさと帰って!」 境界線だとばかりに、鉄の扉を叩きつけるように龍一の目の前で閉めた。 外界は、またいつものように、静かに戻る……。
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