Wed.

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しばらくキョロキョロを視線をさまよわせて、 「お腹すいた?」 と、美百合から少し離れて床に座った『美百合を救う』という、文字通り騎士の活躍を見せてくれた龍一に微笑みかけた。 独り暮らしだから手料理はお手のものだ。 それに自慢のハニートーストだって、すぐに作れる。 だけど龍一は、 「他に聞くことあるだろ?」 そう言って、ゆっくりと美百合に近づいてきた。 細くて長い繊細そうな指先も、同時にこちらに伸びてくる。 「他にって、何よ?」 美百合はその指先につい見惚れてしまいながら問うた。 龍一は答える。 「俺がどうしてここに来たのか、とか……」 見とれていた指先が、すぐ眼前に迫って、思わず胸がはね上がった。 羽のように、美百合の頬にそっと触れる。 龍一の指先は想像したよりずっと冷たくて、ちょっと意外だった。 「俺が、どうして一日中、お前の部屋の前に立っていたのか、とか……」 かすかに触れる軌跡を残しつつ、龍一の大きな手のひらは、美百合の頬をすっぽりとおおう。 極上のシルクのようなヒヤリとした肌なのに、ゴツゴツと固い手のひらがあまりにも男っぽくて、そんなギャップに自然と美百合の喉が鳴る。 「俺がどうしてこんなにもお前の傍にいたがるのか、とか……」 名残惜しむ美百合の気持ちを残して、まだ先へと進もうとする龍一の指先は、美百合の左耳を通過する際、かすかにそこを刺激して、 「ひゃう」 と美百合の背筋を震わせた。 龍一の右手は、そのまま髪をすくって後頭部へ……。
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