Wed.

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カチャ、チャチャン シャキシャキッ かすかな金属音が聞こえて美百合は目を覚ました。 その気配を龍一も敏感に感じ取ったのか、いささか早回し気味に、 パチ、ガチャパチパチ パチ、パチッ、ガシッ 辺りをはばからない固い音を連続で響かせる。 目を開けると、龍一がジャケットの下の腰の辺りに、何かを隠したところだった。 まだ裸のままの美百合に対して、龍一はジャケットまで完璧に身につけている。 そんな性急さが気にいらなくて、ちょっと膨れて見せると、龍一は美百合に歩み寄って、やさしいキスをひとつくれた。  にゃおん。 マタタビを与えられたネコのように龍一に腕を回そうとすると、それはそっと拒否される。 「もう行かないと」 冷たい言葉に、毛を逆立てて怒ろうかとも思ったが、龍一の浮かべる微笑にたやすく溶かされた。 仕方ない。 「……アンコール」 せめてものおねだりも、 「ダメだ」 つれないことこの上ない返事。 でも口調がやさしいから怒ることも出来やしない。 「会いたい人がいるんだ」  フーッ! 思わず牙を剥いたら、笑われた。 「バカ、男だ」 逆立てた毛をなだめるように、龍一は美百合の髪を撫でる。 と思ったけれど、 あれ? 逆にクシャクシャにしてる? 龍一は軽いつむじ風のように美百合の髪を乱すと、さっと背を向けて部屋を出て行こうとした。 ぶぅーっ、と膨れようと思ったが、 「鍵閉めろよ」 振り返ってかけられたやさしい言葉に、また『にゃおん』と骨抜きにされた。
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