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バイト先のカフェから美百合のアパートまでは、歩いても20分とかからない。
すごく近い。
雨が降ったり、遅刻しそうな朝だったりすると、もっと近所で働けばよかったと後悔するが、龍一が送ってくれるという今夜は、いつもにもまして、あっという間に帰りついてしまいそうだ。
ふたりで、こんな風に夜道を歩けることが愛おしくて、美百合は、
「喉が渇いた」
と言ってみた。
すると龍一は、目視で喫茶店かファミリーレストランを探し始める。
「違うの。自販でいいよ。もったいないし」
つい貧乏症のセリフが飛び出してしまったが、言いたいことはちょっと違う。
おそらく世界一『夜と月』が似合うこのイジワルな黒ヒョウさんと、この綺麗な時間の中を、もう少し一緒に歩きたいのだ。
龍一は少し呆れた顔をして、それでも街路灯のなかに薄ぼんやりと浮かぶ自動販売機を見つけると、ポケットから小銭を出しながら、そちらに向かって歩いていった。
美百合はその場に足を止めて、龍一の帰りをそこで待つ。
だって、あんまり近づくと、ああいう場所は虫がたくさんいて怖い。
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