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――すると突然、
背後で、けたたましい車のブレーキ音を聞いた。
美百合は歩く龍一の背中に見惚れていて、何が起こったのか状況がつかめない。
ただ自販に向かっていたはずの龍一が、血相変えてUターンしてきて、
一瞬のうちに美百合の体を、腕に巻き込むようにして下がらせて、美百合の後ろの車との間に立ちはだかった。
美百合が、やっと振り返って見れば、黒いワンボックスカーが止まっている。
こちらに助手席側を向けて止まったその車からは、前と後ろから、それぞれ一人ずつが降りてこようとしていた。
「道でも聞きたいのかしら」
美百合は呑気にそんな風に考えていた。
すると、
ガシャッ、
――パシュン
なんだか聞き慣れない音がして、助手席から踏み出した男が、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
美百合は、夜の闇の中でもはっきりと見てしまった。
今、血しぶきが飛んだ!
そして男の額には、今のこの瞬間に、黒々とした穴が穿たれた。
「!」
息を詰めた悲鳴が漏れる。
何が起こったのかわからない。
唯一その答えを示してくれるはずの美百合の騎士に、救いを求めて目を向ければ、龍一の手には真っ黒な拳銃が握られていた。
「……チッ」
その龍一が舌打ちをする。
それは、とんでもないことに巻き込まれた、美百合のようなパニック状態で出るものではなく、
日常茶飯事に繰り返される、面倒なことがまたひとつ起こったというような、軽い侮蔑さえこもった舌打ちだった――。
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