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龍一は拳銃をジャケットの下に隠した。
そして足早に車に歩み寄ると、
「ヒッ……」
引きつった声をあげて、車の中に逃げ込もうとする男の背中を、左腕で無造作につかむ。
大のおとなの体を、軽々とこちら側に引き戻した。
それだけではなく、空いた手で車のスライドドアをつかむと乱暴な勢いで、
――そのドアを閉めた。
「ぐあっっ」
車内に残った右腕の付け根を、したたかにドアに挟まれて、男は苦悶の悲鳴をあげる。
おそらく折れたであろう肩か腕に、龍一はまったく容赦なく、ドアを閉め続けた。
男の足が爪先立っている。
挟まれていない方の左手で、断末魔の苦しみを訴えるように、助手席の窓を叩いている。
男のあげる悲鳴は、美百合の身体を足元から震え上がらせた。
すると車の向こうから、男の叫び声を聞いたらしい、ふたりの助け手が飛び出してきた。
龍一は再び腰から拳銃を抜くと、一言も発することなく、ふたりにそれを突きつけた。
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