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龍一の動きに無駄はない。
まるで優雅な舞いのようだ。
だが龍一のその無言の圧力に、すべての時が止められる。
動きを止めた男たちを尻目に、龍一は責め苦を与え続ける男の背中越しに、耳元で何かを低くささやいた。
すると男は、弾かれたように大声をあげた。
「出来るかよ、こっちだって命懸けなんだ」
――バシュン
龍一は、ためらうことなく銃を使った。
今度こそ美百合は、はっきりと見た。
龍一が、拘束している男の足を、迷うことなく撃ち抜くところを――。
「ギャアアアアア!」
男が、思わず耳をふさぎたくなる悲鳴をあげる。
美百合は文字通り耳をふさいだ。
人間の五感のひとつの聴覚をふさぐと、今度は視覚が鮮明になる。
龍一がまた男の耳元に口を寄せて、何事かをささやいている。
そんな様子が、まるでズームアップされたように美百合の視覚に飛びこんできて、
その龍一の顔は、微笑んでいるようで……。
それでいて泣いているようで……。
まるで、死ビトのようだった。
あんな顔は知らない。
あんな龍一は見たことがない。
美百合の知っている龍一と、いま目の前で恐ろしいことを平然とやってのける龍一とが、頭の中で一致しない。
――あれは誰だ――
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