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龍一がこちらを振り返った。
「美百合……」
名前を呼んで、こちらに近づいてくる。
史上最低で最悪の、悪夢のような光景。
前に、夜の闇が凝ったような男だと評したことがある。
だけどアレはそんなものじゃない。
まさに純粋な闇だけの男だ。
その闇が、こちらに迫ってくる。美百合に向かって手を伸ばしてくる。
――殺される!
その本能の警告に従って、美百合は大きく抗った。
「触らないで!」
龍一の頬がかすかに歪む。
だけどもう騙されない。
「あなた、何者なの? なんでそんな簡単に人が殺せるのよ!?」
「お前を守る為だった」
龍一の口調は泣いているようだ。
だけど、全部つくりものに決まっている。
だって、あんな死ビトの顔をするよりも、悲しむフリや泣いているフリをする方が絶対に楽だもの。
アレの方が、きっと龍一の素顔なのだ。
きっと何も無いのが、龍一のホントウなのだ。
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