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とても堪えていられなくなった涙が、とめどなく頬をこぼれ落ちた。
涙を流しながらも、美百合は頭の中で、必死になって自分の足に信号を送る。
動け、動け、動け……。
すぐにでも逃げ出さなければと思うのに、恐怖で足がすくんで言うことをきかない。
時間を稼ぐために、龍一の言った言い訳に乗ったフリをする。
「私の為に人、殺すなんて……、バカみたい……」
龍一は眉をしかめて、美百合を見おろしている。
動け、動け、動け――、
動いた!
美百合は鮎のように身をひるがえして、全速力で駆け出した。
逃げろ、逃げろ、逃げろ。
――死にたくない!
だけど捕まった。
容赦のないその腕の力は、美百合を乱暴につかむと、死神が鎌を振り下ろすように引き戻した。
「放して! 放してよ! 私に触らないで!!」
次に美百合を襲うのは痛みなのか苦しみなのか……。
わからないので滅茶苦茶に暴れた。
美百合に出来る最大限の抵抗で死神に抗ってみせた。
だけど……、
この死ビトであるはずの男の体は、何故か温かくて、しかも確かな心臓の音が美百合の耳に懐かしく響いて……。
思わず動きを止める。
耳に届く鼓動だけが、美百合には最後の蜘蛛の糸で……、
その胸にすがりつくようにして、むせび泣いた。
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