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美百合は、龍一の動きを探るように歩を進める。
走り出したい衝動をこらえて、刺激を与えないようにそっと歩いた。
けれど、アパートの部屋の前まで到着しても、龍一は美百合の傍を離れてくれない。
それはじっと行動を窺われ続ける獲物にされた気分で、美百合は己のテリトリーともいえる部屋の鍵を、龍一の目の前で使う気にはなれなかった。
「どうした?」
すると龍一が、美百合の顔を覗き込むように体を屈めてきた。
怖かった。
またそこに龍一の死ビトの顔を見るのが、本当に怖かった。
部屋に連れ込まれて、人知れずひっそりと殺されるという絵面までが、美百合の脳裏にまざまざと浮かぶ。
「もう行って。お願いだから、もうここへは来ないで!」
本当は静かに説得するはずだったのに、感情のコントロールが効かない美百合の口からは、怒鳴るような勢いで言葉が飛び出した。
失敗した――、
と思ったら恐怖で身体が震えてきた。
もう十分に流したと思っていた涙が、まだ残っていたとばかりに、びっくりするほどあふれ出した。
これが美百合の『生きたい』という意志だ。
死神に対する美百合に出来る最後の抵抗だった。
「何故だ? どうしてそんなこと……」
目の前の死ビトは、まるでそれが真実だと言わんばかりの悲しみに満ちた表情をつくって、
美百合の頬を、冷たい両手で包んできた。
その仮面につい騙されそうになって、美百合は思わず視線を逸らす。
すると龍一は、
「愛してる……、お前のためだったら何でもする。死んだって構わない」
と言った。
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