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美百合が龍一をここで拒絶すれば、この男は本当の死ビトになる。
おそらく、さっき見せた銃を使って、自分の頭を打ち抜くことさえやってのけるだろう。
それほど龍一は壊れていた。
美百合は、人がそれほどたやすく壊れないことを知ってはいたが、それでも絶対に壊れないものではないことも知っている。
龍一は壊れていた。いや砕けていると言ってもよかった……。
何かが、龍一の心を粉々に砕いてしまって、龍一は日々それを誰にも見せないように隠して、ずっと孤独に生きてきたのだ。
だけど美百合は、この短い出会いのどこかで、龍一のその心の破片に触れてしまい、そして戯れに抱きしめてしまったらしい。
そんなあやふやなものに縋りつかずにいられないほど、砕けてしまっているこの男の心に、美百合は再び孤独な破片に戻れとはとても言えない。
この気持ちを何と言う?
美百合は、自分の両頬に添えられた龍一の手を、上からそっと抱くように包み込んだ。
これ以上、砕けてしまわないよう、細心の注意をはらって、ゆっくりと頬からはずして下へと降ろす。
頬から離れていく龍一の冷たい手のひらを、美百合は自身でも確かに愛おしいと感じながら、まっすぐに龍一の瞳を見つめた。
「ごめんなさい」
龍一の目の中に、また闇の雫のようなキラキラした珠があふれ出す。
美百合もつられて涙が出てきた。
「私も愛してる。だからもう、殺してくれだなんて言わないで……」
そっと抱きしめてあげるつもりが、思わずかき抱くように腕を広げて、しがみついてしまった。
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