Thu.

13/22

26人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
美百合が龍一をここで拒絶すれば、この男は本当の死ビトになる。 おそらく、さっき見せた銃を使って、自分の頭を打ち抜くことさえやってのけるだろう。 それほど龍一は壊れていた。 美百合は、人がそれほどたやすく壊れないことを知ってはいたが、それでも絶対に壊れないものではないことも知っている。 龍一は壊れていた。いや砕けていると言ってもよかった……。 何かが、龍一の心を粉々に砕いてしまって、龍一は日々それを誰にも見せないように隠して、ずっと孤独に生きてきたのだ。 だけど美百合は、この短い出会いのどこかで、龍一のその心の破片に触れてしまい、そして戯れに抱きしめてしまったらしい。 そんなあやふやなものに縋りつかずにいられないほど、砕けてしまっているこの男の心に、美百合は再び孤独な破片に戻れとはとても言えない。 この気持ちを何と言う? 美百合は、自分の両頬に添えられた龍一の手を、上からそっと抱くように包み込んだ。 これ以上、砕けてしまわないよう、細心の注意をはらって、ゆっくりと頬からはずして下へと降ろす。 頬から離れていく龍一の冷たい手のひらを、美百合は自身でも確かに愛おしいと感じながら、まっすぐに龍一の瞳を見つめた。 「ごめんなさい」 龍一の目の中に、また闇の雫のようなキラキラした珠があふれ出す。 美百合もつられて涙が出てきた。 「私も愛してる。だからもう、殺してくれだなんて言わないで……」 そっと抱きしめてあげるつもりが、思わずかき抱くように腕を広げて、しがみついてしまった。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加