Mon.

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午前7時30分。 電車のように、いつも時間ぴったりにあの人はこのカフェに訪れる。 カランと軽いドアベルがなると、美百合の心臓は小鹿のように跳ね上がる。 あの人は、美百合が必死こいて用意した奥の席に腰掛けると、目の前のプリムラを見つけて、ふっと微笑んだ。 「よっしゃっ!」 美百合はこっそりガッツポーズする。 今日は幸先がいい。 ずっと考えていたことを実行するには、まさに絶好のスタートダッシュだ。 美百合は、あえて全国紙ではない地方紙の新聞と、お絞り、水を持って席に向かった。 全国紙はすでに自宅で目を通してしまうのだろう。 何を求めているのかわからなくて、以前は経済紙や、何種類かの全国紙も腕に抱えて持っていったこともあるが、あの人は地方紙と、この辺りで不定期に配布される情報ペーパーなんかを好んで読んだ。 手当たり次第に情報収集している感じがして、とてもクールだ。 以前は、 「ありがとう」 と涼しげな視線をめぐらせて言ってくれたけれど、最近は三点セットを据えるがいなや、 「いつもの」 と一言、そっけないことこの上ない。 それはきっと、私の気持ちに気づいているから。 美百合には自覚がある。 「はい」 と返事をする声も上ずるほど、『好き好き光線』を発する私に、まったく気がつかないほど、あの人は鈍感な男じゃない。 わかっていて、わかっているからこそ、無視しているのだ。 その事実に気がつくと落ち込むことこの上ないが、それでも美百合の選択する音楽と、配置する鉢植えは気にいってくれているのだろう。 無視はするけど、毎日通ってきてくれる。 この事実が、美百合の心を奮い立たせる。
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