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たった今、人を殺したばかりのその手に抱かれていると思うと、素直に身を委ねるのも度胸がいる。
訳を聞いてみたくても、龍一はとにかくボロボロで、美百合が身体を投げ出すようにして支えてやらないと、すぐにでも粉々になってしまいそうだ。
とにかく落ち着いてもらいたくて、
「今、開けるから」
と言って、ようやく解放してもらい、部屋のドアの鍵を開けた。
ハチミツを溶かした紅茶でも、いれてみるつもりだった。
けれど、玄関を入るなり龍一に乱暴に唇を奪われて、そのままドアに押し付けられて、深いキスをされた。
そんな性急さは、これまでの龍一には見られなかったもので、その右手がまさぐるように、美百合の身体を這いまわる。
驚いたのと、やはり消えない恐怖とで、小さな悲鳴が塞がれた唇から飛び出したが、幸い龍一の耳には聞こえなかったようだ。
――落ち着け
と自分自身に言い聞かせ、美百合は龍一の胸をそっと押す。
空間の開いた唇の間でささやいた。
「……ちょっと待って」
だってこの手は、ついさっき、誰かの命を奪った手だ。
せめて洗って欲しかった。
だけど龍一は、美百合の声をまるっきり無視して、再び身体を寄せてくると、美百合の首筋に顔をうずめるようにして舌を這わせてきた。
両手は逃がさないとでも言うように、美百合の左右を囲っている。
殺し屋の前に無防備に急所をさらしたその体勢に、美百合の身体はゾクリと震え上がった。
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