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この腹がたつぐらい記憶力のいい男は、昨夜の記録を濃厚に残している、美百合の身体の的確な急所をたがわず狙ってくる。
たまらず零れる喘ぎを察したのか、その大きな左手が美百合の口をそっとふさいだ。
一瞬、呼吸を止められるのかと、
「ヒッ」
と悲鳴が飛び出したが、龍一の手のひらは、今はもう限りなくやさしい。
ただ身体だけが、乱暴につきあげてくる。
「噛んで……」
また龍一が言った。
最中に、何度も何度も龍一は、美百合に指を噛むことを命じた。
昨日もそのような記憶があるが、あれは美百合にしてみたら、ただじゃれていただけだ。
なのに、今夜のように危険で激しい男の指を噛むなど、まさに命がけといった行為になる。
だけど龍一は、容赦なく美百合に噛むことを命じた。
時には拒否して首を振ると、
「ここだろ?」
と言って、美百合を激しく甘く責めたてる。
「ぁうぅぅぅ」
思わず声を漏らして、与えられた指を噛むと、龍一は満足げに美百合を少しだけ許してくれる。
そんな繰り返しに、記憶も意識もボロボロになり、
「バカ、変態!!」
つい、いつもの調子で龍一の胸をポコポコ叩いてしまった。
叩いてから我にかえる。
……龍一は、怒ってない?
龍一はさっきまでの激しい動きを止めると、闇を秘めた冷ややかな目つきで美百合を見下ろしていた。
美百合は、
――もう殺されたっていい
と思った。
この美しい男の手にかかって死ぬのなら、それはそれで美百合には幸せな運命かもしれない。
辛い現実を見なくていいし、もう独りでがんばらなくてもいい。
だけど龍一は、ふっとその闇の中に甘やかな光を灯して、
「どうする? やめる?」
と問うのだ。
イジワルなセリフをささやくたびに、美百合の中で龍一の質量がぐんと増す。
それだけで美百合の全身はビクリと反応し、頭のてっぺんまで痺れるような快感が走った。
美百合は息を乱して、
「続けて……」
と請うた。
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