26人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
朦朧とした意識と、まだ余韻に揺さぶられる身体をくったりと龍一に預けて、やさしく髪を梳く龍一の指に目を細めていると、
「今日は寝ないの?」
と龍一が聞いた。
ゆるゆると目をあげ、
「なんで?」
と聞き返すと、龍一はちょっと息をついて、美百合の頭の下から腕を抜き取り、ベッドを軋ませてその身体を起した。
明るい照明の下にあきらかにされた龍一の身体は、恐ろしいほどの数の傷痕が飾っていた。
美百合の目の前の脇腹にも、背中がわの肩から腕にかけても、えぐれて引き裂かれたような傷がある。
あれは銃創だろうか?
盛り上がった後背筋には、刃物で切りつけられたような痕が数箇所。
指を伸ばして、その傷に触れようとしたら、龍一は手をとって美百合を拒否した。
「少しでも……、油断するとこうなる」
そう言って、龍一は苦々しく微笑んだ。
この傷痕は、けっして勲章なんかじゃないのだろう。
龍一のその心を砕いていった、ひとつひとつの原因なのだ。
これを美百合に見せまいとして、龍一は美百合が眠ることを望んだのだと悟る。
美百合が触れることも許さないほど、これらは龍一の汚点なのか。
殺し屋の龍一にこれまでどんなことがあったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!