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「ねぇ……」
傷痕を美百合の目から隠そうとするように、そそくさと洋服を身につけ始める龍一の背中に、美百合は呼びかけた。
「私の父を殺して」
一緒に堕ちる方法が、美百合にはこれしか思いつかなかった。
だけど、
「はぁ?」
龍一は心外だという風に唇を歪めた。
「俺は殺し屋じゃない」
今度は美百合が驚いた。だったら何だというのだ!
「じゃあ、何?」
嘘やごまかしなら許さないと、美百合は龍一を睨みつける。
すると龍一はしばらく逡巡して、
「政府直属の工作員」
と答えた。
はぁ?
お次は美百合が唇を歪めた。
龍一の言っている言葉の意味がわからない。
もしかしてトム・クルーズ?
頭に浮かぶのはミッション・インポシッブルのあのテーマソングしかない。
確かM・I・Ⅲでは、奥さんにもその正体を隠していたんじゃなかったっけ?
「そんなこと……、私にしゃべっちゃっていいの?」
冗談でしょう?
という思いで尋ねると、
「お前が聞いたんだろ? この事、もし口外したら、多分お前、消されるだろうな」
と、本当に冗談みたいに龍一は答えた。
それで理解した。これは冗談なんかじゃない。
龍一の冗談は、もっとヘタクソだ!
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