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美百合は何だか思いっきり拍子抜けした。
「じゃぁやっぱり、正義の味方なんでしょ?」
龍一は美百合が想像していたのとは、まるっきり正反対の位置にいる。
とたんに、自分の中に流れる血筋が汚く思えた。
「だったら、父を殺してよ!」
叫ぶように言った。
「だから、俺は殺し屋じゃない。まぁやってることは同じだけど……。政府の指令でしか動かない」
自虐的に微笑んで言う龍一は、それでも間違いなく正義の味方だ。
このどうしようもない血が流れている美百合の身体とは違う。
「イヤよ。殺してよ。私を助ける為に、人殺したじゃない!!」
今度は龍一の方を、自分と同じ位置まで引き降ろそうとやっきになった。
「あれは……、後々面倒なことになる。もう今から憂鬱だ」
美百合の心情などわからない龍一は、本当に面倒だといった様子で言うのだ。
美百合は腹がたってきた。
美百合がどれほどの覚悟で父親を殺してと依頼したのか、龍一にはこれっぽっちも伝わっていない。
「私の為だったら何でもするって言ったじゃない」
だけど龍一は、
「思い通りに行かないと、怒り出すの、お前の悪い癖だ」
と冷静な口調で美百合をたしなめる。
美百合は涙が出てきた。
「父が、凶悪な犯罪者を、世にはびこらせていると思うと、苦しいの。父が裁判で、卑劣な奴を無罪にするたび、死にたくなる」
そしてその血が美百合の中にも流れている。
どんなに洗っても落とせない汚点。
どんなに考えまいとしても忘れられない現実。
それは否応もない事実。
そして隠しきれなかったホントウが、美百合の口からこぼれ落ちた。
「大好きなパパが、犯罪者の手助けをしてるなんて、耐えられない!」
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