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実家の迫田家の敷居をまたぐのは久しぶりだ。
さて、自分の家に入るのにチャイムを鳴らすのも変な気分で、キーホルダーにアパートの鍵とまとめてつけっぱなしになっている、自宅の鍵をドアに差し込む。
すると驚いたことに、玄関の鍵は開いていたらしく、カチャッと音をたてて、逆に施錠した。
美百合は、定期的に掃除に来てくれるはずの家政婦さんが、鍵をかけ忘れたのかと憤った。
泥棒でも入ったら、一体どうしてくれる気なんだ。
そんな美百合自身が、まるで泥棒にでもなった気分で、恐る恐る自宅の廊下を進んでいくが、泥棒どころかひとっこひとりいる気配がない。
家の中はシンと静まりかえっている。
龍一が、美百合を自宅に呼び出したからには、さては父親と話し合いでもさせようという魂胆か。
はたまた美百合が自宅へ戻るように仕向ける差し金か。
いいけど。
あのアパートを引き払っちゃったら、安心してセックス出来る場所がひとつ減っちゃうんだよ。
と美百合は龍一に言ってやろうと思っていた。
しかし客間にもダイニングにも、龍一どころか父親の姿もない。
一般には豪邸と呼ばれるレベルの、たくさんの部屋を覗きこみながら、美百合はなんだか悲しくなってきた。
人の住まない家は荒れる。
定期的に掃除はされているが、それでも自分の生まれ育った家が、こんな風に漂々としているのを見るのは辛い。
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