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「だったら……」
先日テレビで見た、尾藤信也の無実をカメラの前で滔々と訴える父親と、
今ガムテープでぐるぐる巻きにされ、イモムシのように転がる父親の姿が、
頭の中で二分割された。
社会の宿敵、『悪徳弁護士』迫田博文の命は、いま美百合の手の中にある。
美百合は、
「さっさとやって!」
と言い捨てるように叫んで、顔をそむけると固く目を閉じた。
こう言うことが、美百合に出来る社会への罪滅ぼしだ。
即決しなければ、また迷宮に堕ちるだけ。
すると、龍一が歩いてくる気配がして、美百合の手の中に何か堅いものを握らせた。
それは冷たくてずっしりと重い。
「お前が殺れ」
目を開けると、手の中にあったのは真っ黒な拳銃。
「コイツの死を本当に望むなら、お前がその引金を引け。掃除屋が綺麗さっぱり証拠を消してくれるから、後の事は心配しなくていい」
振り仰いで見る龍一の顔に表情はない。
そう美百合に告げる声も低くて冷たい。
まるで赤の他人と話しているみたいだ。
美百合は、他に支える者のない自分の手の中の重みに負けて、その場に崩れ落ちそうになった。
「嫌よ。出来ない。あなたがやって」
と龍一にすがるような目を向けるが、
「俺はやらない。めんどくさい」
龍一はそっけなく言い捨てた。
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