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美百合は、まるでイモムシのようにみっともなく転がる父親を見た。
そして顔色ひとつ変えず立つ死ビトの顔をした龍一を見た。
それから、両の手のひらに乗せられた拳銃を見た。
このトライアングルが内包しているのは、美百合のこれまでの世界すべてだ。
美百合をこの世に送り出してくれた父親。
美百合が殺されてもいいと思うぐらい愛した男。
そして生殺与奪の権を握る黒い拳銃。
美百合は考えて、考えて、考えて……、
「……できない」
結局、そう言ってしまった。
ここで父親に死んでもらった方が、社会が平和になると知っている。
ここで父親と永遠に別れれば、美百合の苦悩も終わるということもわかる。
だけど、
「大好きなの……パパ。……もうあんな事やめて」
美百合のホントウが、その唇から転がり出た。
涙と一緒に、ポロリと転がり出た。
後はもうとめどなく、次から次へとあふれ出す。
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