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美百合はついに、何もかもの重さに負けて銃を構える腕を下ろした。
涙だけは止めようもなく流れ続けていたけれど、胸の中は何かあたたかいものが占めていた。
自分の決断の正邪がわからなくて、迷子のような視線をさまよわせると、龍一が少し笑ってくれたような気がした。
「美しい家族愛……。泣けるねぇ……」
そんな場違いなセリフを吐いて、いきなり登場してきたのは、尾藤家のひとり息子、尾藤信也だった。
直に会ったのは、もう三年近く前になるが、美百合の父親と一緒にテレビに映っているところを、その後も何度か見ているから間違えようはない。
テレビの向こうでは、いつも気障ったらしいサングラスをかけていたが、今日は裸眼で、その爬虫類のような目でこちらを見て、
ついでに美百合に拳銃の先を向けていた。
信也は、美百合から離れて立つ龍一に、
「はい、おりこうさん」
と声をかけた。
そうやって龍一の動きを牽制しながら、美百合の方に歩いてくる。
美百合が持ったままだった龍一の拳銃が、もぎ取られるように奪い取られた。
「この前の裁判のお礼に寄ったらさぁ、愛しの美百合ちゃんが居るじゃない!?」
そう言って、手にした銃の筒先を美百合の首筋に押し付けた。
ヒヤリとした感触に、美百合は逃げるように仰向いて、信也の前に喉をさらす。
「お前らさぁ、おとなしくしてたら命だけは助けてやるからね」
堅い銃口の感触に、美百合は息をすることさえ躊躇われた。
「お前はダメ。なんか無性に気に食わねー。後でゆっくり嬲り殺してやるから、ここで待ってろ。逃げたら女は殺す」
龍一にだけは厳しい言葉を投げるのは、龍一が何かアクションをおこそうとしたのだろうか。
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