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「このアマ! おとなしくしろっつってんだろ!」
信也は暴れる美百合を怒鳴りつけると、玄関から廊下を歩いてきた誰かに目を止めた。
「おお、調度いい時に来た。今から俺はお楽しみだ。その間、あいつら見張ってろ。くれぐれも殺すなよ」
信也の肩で、お尻を押さえられるようにしてうつ伏せに担がれているから、誰が来たのかわからないが、どうやら信也の仲間のようだ。
万事休す。
敵ばっかりが増えて、龍一に助け手はない。
ますます腹が立って、信也の背中をボカボカ殴った。
「暴れんなよ。もっと早くこうやって捕まえるつもりだったんだからさ」
信也は、廊下を進みながら次々とドアを開け、ふさわしい部屋を探しながら、美百合に言う。
「ホントはお前のママの葬式んときに拉致ってやろーと思ったのに、お前こねーんだもんな」
ついにベッドルームを見つけて、下卑た声で続けた。
「ダメだぜー。せっかくのママの葬式をばっくれるなんて。親不孝もいい加減にしなきゃあね」
ベッドの上に乱暴な勢いで投げ出された。
「せっかく愛しの美百合ちゃんを手にいれるために、俺が殺してやったんだからさ」
「なっ……」
美百合は慌てて身を起そうとしながら、聞き捨てならない信也のセリフに驚いた。
肘をついて上半身を起そうとする美百合の上に、信也が跨るように覆いかぶさってくる。
「マスコミにママが入院する病院をリークしてやったのは実は俺―。
最初はメンドーなことは、みんなで分け合わねーとっていう、助け合い精神だったんだけど、美百合ちゃん見たら、考えが変わっちゃったー」
「……どういうことよ」
「ママが死ねば、お前はこの家に帰ってくると踏んだのさ。俺がせっかくこの家で張っててやったのに、ママの付き添い付き添いで、お前ちっとも帰ってこねーんだもん。
もうこうなったら、ママに早く死んでもらうしかねーと思って、知り合いのテレビ局を焚きつけて、一大イベントにしてもらったのさ」
「!!」
「ママがそれでずいぶん弱ってるの知ってたからな」
信也はニタリと笑う。
「死ぬ前にテレビに出れて、人生にひと花咲かせられて良かっただろ」
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