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龍一が美百合と位置を代わるようにして、信也の腰に挟まれた自分の拳銃を抜き取る。
もうひとつあったはずと、美百合が記憶を頼りに辺りを見回すと、ベッド脇のサイドボードの上にソレはあった。
思わず手を伸ばして、手にとって握る。
龍一に握らされたものとはまた形が違う、ちょっと小ぶりのその拳銃は、同じく人の命を奪うもののはずなのに、まるで持ち主の信也みたいに軽薄に見えた。
美百合が両手でその拳銃を握ると、何故か逆さまだった。
だけど美百合には握り方なんかどうでもいい。関係ない。
使用方法が違うのだ。
美百合は、拳銃を思いっきり振りかぶって、信也の頭めがけて振り下ろした。
「この変態」
もう一回、振り上げ、振り下ろす。
「野郎――」
振り上げ、下ろす。
「おまえ――」
上げ、下ろす。
「なんか――」
振り下ろす。
「死んじゃえ――」
涙が出てきた。
「――よ!」
美百合がとどめの一撃を極めるのを待っていたかのように、龍一が肩をつかんで、美百合を信也から引き離した。
「もうよせ」
だけど美百合の激情の炎は静まらない。
今度は龍一にその矛先が向かう。
「なんで止めるのよ! こんな卑劣で最低なヤツでも、生かしておくべき?」
ママが殺された。
直接ではないにしても、死期が早まった原因は、間違いなく信也にある。
感情の爆発そのままに、龍一の胸を押しやるようにして叫んだ。
すると背後で、美百合の攻撃が終わるのを待ちかねたように、信也がゆらりと立ち上がるのを感じた。
美百合はとっさに振り返ろうとしたが、龍一はそれを許さず、自分の胸に美百合の顔を押し付けるようにして視界を塞ぐ。
龍一は、
「いいや、死ぬべき」
まるで当たり前だという風に言い切って、銃を撃った。
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