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美百合は、龍一の広い胸に抱かれて、その銃声を聞いた。
前に聞いた時よりも小さい、空気の抜けるような些細な音だった。
だけどその音で、すべてが終わった。
ママの悲しみも、美百合の苦悩も。
龍一が少しだけ力を緩めてくれたので、そのたくましい腕の中からそっと顔をあげると、美しい顎のラインから引き締まった肩の線が見えた。
そこから前にまっすぐに伸びる右腕と、右腕の先には薄い煙を吐く黒い拳銃。
これが龍一の住んでいる世界だ!
まだ慣れないけれど、とても慣れるとは思えないけれど、それでも美百合は、この龍一についていこうと、覚悟を決めている。
だったら、
「何でコイツが死ぬとこ見せてくれなかったのよ!!」
龍一の腕を振りほどき、もう二度と身動きしないだろう信也に歩み寄る。
この光景を己の目に焼き付けておこう。
脳裏に刻んで、絶対に忘れないでおこう。
美百合は誓って、物言わぬ信也の身体を蹴った。
――踏んだ。もう一度蹴った。
グニャリとした信也の身体は、震えがくるほど気持ちが悪くて、そして怖くて、たちまちのうちに涙が溢れて、もう何も見えなくなった。
だけど蹴った。
そうしないと、龍一の心の欠片を、一緒に拾ってあげられない気がした。
いつの間にか、辺りをはばかることなく大声で泣き喚いていた美百合を、龍一はそっと抱きしめてくれた。
この火薬の臭いがする腕の中だけが、美百合の唯一の安住の地なのだと、
ほかの誰でもない、神様でもない、自分自身でそう決めたのだと、
美百合の頭は冴え冴えと理解していた。
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