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美百合の泣き声がすすり泣きに変わったころ、龍一がそっと言った。
「時間がない。行こう」
美百合は顔をあげる。
「どこへ?」
何も聞かされていない。何も知らない。
しかし龍一は答えをくれず、代わりに自分の着ていたブルゾンを脱いで、美百合にすっぽりと被せるように着せた。
ご丁寧にファスナーまできっちりあげての、至れり尽くせりだ。
ただしサイズが違いすぎて、袖の長い『はた坊』みたいになったが。
「おいで」
龍一のやさしい誘いにおとなしく肩を抱かれて書斎に戻ると、ガムテープの拘束からちゃんと解放された父親が、ソファーに座って自分の手足をさすっていた。
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