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その脇には、美百合が初めて見る男性が立っていた。
年は龍一よりは上みたいだが、まるで映画にしか出ないと公言する俳優さんのように格好いい。
「慎重に行動しろって言ったろ? 女に銃を渡して自分は丸腰になるなんて……。お前どうかしてるよ」
龍一にこんな風に気安く話しかける相手を、美百合は初めて見た。
しかも皮肉なんか言ってる。
「窪田さん、うるさいです」
龍一の答えも、うっすら敬語だ。まるで体育会系クラブの先輩後輩みたいだ。
龍一ですら、けっして逆らえない人なんだとわかった。
そんな龍一に向かって、その窪田という男は何かを投げ渡した。
「お前、足もないだろ?」
「いえ、足なら有ります。俺は車でここへ来ました」
龍一はなんだかムキになっているみたいで、やっきになって否定している。
そんな姿がちょっぴり可愛いなあと、美百合はぼんやりと見上げていた。
窪田は、そんな美百合に一瞬だけ視線を寄こして、マバタキのようなウィンクをくれた。
「いいからもう行けよ。手筈は整えてある」
ただのマバタキかもしれないけれど、美百合はウィンクだと思った。
案の定、龍一の車は見事にパンクしていて、
「あのクソガキ……」
龍一はお下品な悪態をつく。
感情を隠さないのはいいことだけれど、龍一の完璧なイメージが崩れなきゃいいな、と美百合は思う。
ま、なんだって美百合は愛しているから、どうでもいいことだけれど。
龍一は本当にイヤそうに、後方に並んだ車のドアを開けて、美百合たちに乗るように促した。
父親とふたり並んで、仲良く後部座席に座る。
父親の香りと気配は、美百合にとっても久しぶりで懐かしく思うものだったけれど、
やっぱり龍一の方がいいな、
と美百合は運転する龍一の後頭部を見つめながら思った。
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