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「デートして下さい」
この言葉をけっこうな数の男に繰り出してきたが、断られたことがないという自負もある。
でもこの目の前に座る、これまでに逢ったことのない、最高の芸術家が魂込めて創り出した美術品みたいな男には、さすがに通用するわけもないと心から思う。
「あなたの気持ちは、毎朝の態度でわかってます。私に脈なんかないんですよね!?」
話す言葉は悲しい内容なのに、その美しい眼をこちらに向けられているだけで、ワクワクする気持ちが止まらない。
「明日一日付き合ってくれたら、あなたのこと、綺麗さっぱり諦めます」
「断ったら?」
「明日から毎朝、話しかけます」
それはそれで、超絶級の幸せだ。
「明日から店変える」
ふてくされたように言う言葉が、外見に比べると意外な口調すぎて、ちょっと面白くなって調子にのった。
「他にいい店があるなら、もうとっくにそうしていたはずです。あなたの条件に合う店は、ここの他にない。そうですよね?」
この人の好みどんぴしゃのはずの花と音楽。レシピは門外不出のハニートースト。
それからマニアックな内容てんこもりの情報ペーパー。
私、この人に読ませるために、必死になって街中を駆け回っているんだから。
「本当に、一日付き合ってくれたら、きっぱり諦めますから」
一応、譲歩点は示しておく。
だって怒らせて席を立たれてしまったら、なんにもならないもの。
「わかった。明日の朝食後、お前に付き合うよ」
想像した通り、どうにもクールに徹しきれないらしいこの人は、しぶしぶながらもOKしてくれた。
「いいか、食事中は、絶対に話しかけるな」
しっかり釘はさされたけれど……。
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