Sat.

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ドアが閉まると、父親が肩を抱いて、美百合をシートに座らせシートベルトを締めてくれた。 正面に見える操縦席に続くドアは開けっ放しで、そこから親指をつき立てて美百合に合図をくれるパイロットの腕が見える。 そして、セスナが滑走路を走りだした。 小さな窓に張りつくようにして滑走路を見下ろせば、闇の中でこちらを見上げる、月の女神に愛された美しい男の姿が見える。 綺麗な夜の中で、キラキラとした月の光に抱かれて、 純粋なビロードの闇の結晶のような、 だけど本当はただの『男』でしかない、美百合の愛しい龍一が立っている。 セスナが飛び立って、滑走路の灯りが見えなくなっても、 美百合の瞼の裏側からは、凝ったような深い闇色は消えることはなかった。
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