Sat.

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美百合が垣間見たような、危険な世界でひとり生きる龍一。 そのことを考えると不安で胸がつぶれそうになるけれど、それなら美百合は龍一の、唯一還る海になろうと思った。 あの深い深い……。 深すぎて真の闇に見えてしまうほどの、龍一の本当の『青』の心を理解して、抱きしめてあげられるのは、きっと美百合だけだ。 そんな美百合が待っていると思えば、龍一はきっと迎えにきてくれる。 いざとなったら、危険な場所から真っ先に逃げ出すような醜態をさらしてでも、きっと龍一は美百合の元に還ってくる。 そんな冗談でも考えて、笑ってみようとしたけれど、とめどなく、ただほろほろと涙だけがこぼれ落ちる。 父親が慰めてくれるつもりなのか、機内にあったゴム長靴を履いておどけてみせるが、この涙はきっと龍一にしか止められない。 だから今は、美百合の意思で涙を止めよう。 いつか龍一が迎えに来てくれた日には、今夜の分まできっと泣くのだ。 美百合は唇を噛んで顔をあげた。 次に龍一に逢えた時は、さっき見た美しい景色のことを、すばらしい絵か音楽に例えて、龍一に教えてあげよう。 きっと龍一は表情ひとつ変えることなく、でもけっして飽きることなく、ずっと美百合の話を聞いてくれるだろう。 その日のためにも、もう少し声帯を鍛えておかなきゃね……。 なんとなく、今後の目標が定まって、美百合はコホンとひとつ咳払いで喉の調子を整えた。 龍一が、どちらかというと静けさを好むタイプだと、美百合はいまだ知らないでいる……。   H22.7.11   【無口な青い龍】 Fin
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