第1章

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矢代忍――。 中学時代から陸上競技に興味を持っていたアキは、 スポーツ専門誌で初めて彼の存在を知った。 当時、 高校一年生だった矢代はその頃から関西の大会では敵なしと言われていた。 『西の天才、 矢代忍。 東の神童、 渡辺貴弘との初インターハイ! 前代未聞の一年生対決に注目!』 そんな見出しで始まる文章に釘付けになり、 大会当日はその年の開催地、 福井県の競技場まで足を運んだ。 ――ひと目惚れ、 だった。 本番の緊張を感じさせない、 無邪気でおおらかな笑顔。 スタートポジションから観客に拍手を求め、 気分が乗ってきたところで助走に入り巧みなステップと、 大柄な体躯を生かしたダイナミックなスイングを惜しみなく見せてくれた。
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