1.ある学生の章

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聞こえるか? おまえが猫でも全然かまわない ちゃんとしゃべれなくても全然いい 部屋でゴロゴロしていても テレビばっかり見ていてもいい 時々、尻尾を出したりしてもかまわない 一緒にいられたらそれでよかったんだ 僕の口からは恥かしくて言えなかった言葉が自然と出ていた こんなこと言うつもりはなかったんだぞ 大きな声で怒鳴って言っても彼女は返事をしなかった 最近、ようやく笑えるようになったところなんだ それに、この新しい服どうすりゃいいんだよ 返事をしてくれよ 僕の彼女なんだろ! これからは部屋の掃除、自分でしろっていうのか 僕は前からずっと知りたかった おまえに聞きたかった 猫のおまえなら知っているんだろ 教えてくれ 人の天国と猫の天国って同じ場所なのか? 僕がそう訊いても彼女は口を僅かに動かすだけで 彼女は猫の姿だから 猫が何を言っているのか人の僕にはわかるはずもなく 彼女はもう二度と僕に答えることはできなかった 猫のお墓って、どこにつくればいいんだよ 僕はずっと僕の彼女だった猫の首輪に手を伸ばした
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