原案

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目が覚めるとそこは東京タワーの屋外階段の踊り場だった。 はるか下の地上にはカメラを持った大勢の報道陣が押し寄せているが、その喧噪はさすがにここまでは届かない。 そのとき、横から手が伸びてきて、うたた寝をしていた里琴の口元を優しくぬぐった。ハッとしてふり向くと、彼女はもうすでに里琴の方は見ておらず、毅然とした表情で前を向いていた。太陽に照らされたその横顔はいつもより一層美しく輝いていた。 だが、その顔とは裏腹に、繋いだ手は怯えるように細かに震えていた。里琴は大丈夫だというように力を込め、その手を握り返した。 わたし達は今日、「すべて」を終わりにする―― 薬を飲みながら派遣の仕事をする里琴は、数年前、売れないアイドルをしていたときのマネージャー、鹿間に呼び出される。 鹿間は若手人気女優の松田祐奈と隠れて交際しており、祐奈は結婚し、引退することを望んでいた。だが当然それが許される状況ではなく、二人のスキャンダルを週刊誌に自ら売り、電撃引退したいというのだ。 里琴はアイドル時代に有名プロデューサーへの性接待を事務所の社長、宮下に強要され、今もそのフラッシュバックに苦しんでいた。彼らに復讐ができると説得された里琴は、祐奈の付き人となることを了解する。しかし、祐奈はテレビのイメージとは真逆のわがままな暴君だった―― 実は、鹿間は祐奈のことを愛してなどなく、今の事務所をやめさせ、自分が代表を務める新事務所に移籍させることが目的だった。また、里琴のような女は虫けらのように扱い、祐奈のことは自分の娘のように大切に扱う宮下たちが、実際には祐奈を出世や金儲けの道具、自分の支配欲を満たすものとしか思っていないことを知る。里琴は、祐奈もまた自分と同じ搾取されるだけの人間だと気づき、祐奈と一緒に、自分たちを苦しめ、利用する者たちから逃げるため、密かに計画を練り始め、最後は冒頭のシーンへと繋がる。
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