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僕らはほとんど大学の教室でだけ話をした。  僕は、頭の中である歌が流れていて体でリズムをとっていた。彼女が話しかけてきた。 「何やってるの?」 「頭の中で歌ってる。」 「どんな歌?」 「最近ラジオでよく流れているんだ。『あめあーがりのーみちをーかささしてーあるいたー』ってやつ。」 「続きは何?」 「『みずがーかみにうーつそうおさないこどもみたいに』。」 「タイトルは何?」 「つつみこむように。DJが言うには歌手の名前はまだ決まっていないらしい。」 「『みずがーかみにうーつそう』じゃなくて『みずかーがみにうーつそう』よ。」 「この歌知っているの?いい歌だよね。」 「デビュー前なのにどこかから漏れたんだわ。私の歌なの。」 「本当?歌手なの?きっと売れるよ。間違いない。」 「あなた、歌を作ったことあるでしょ?」 「ないよ。」 「私知っているの。思い出して。」 「あっ、思い出した。僕、少し記憶障害があるんだった。」 「本当に?今日起きたことも覚えてないの?」 「多分覚えてない。他愛もない会話は忘れるんだ。」 「このことを思い出すように歌を作りましょう?」 「できるかな?」 『きっとできるわ。」 ある日のこと。彼女がまた話しかけてきた。     
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