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「ピンクさん、どうかしたんですか?」
覗きこまれ、我に返る。どうしてこの厄介者を見て、気が楽になったのか分からない。
「別に。僕は寄るところがあるから先に――」
そのまま赤神の横を通り抜け、ふと思い留まる。なんとなく、このまま置いていくのも気が咎めて、操は振り返った。疎ましくされるのは御免だが、彼の努力は認めている。
「少し時間はあるか?」
「え?」
「これから屋上に涼みにいくんだ。だから、よかったら君も。……その、別に無理に誘っているわけじゃ、ないからな」
言葉少なに歩き出すと、赤神は尻尾を振る子犬みたいに後をついてきた。
スタジオの非常階段を上って屋上に出ると、冷たい夜風が吹き抜ける。屋上は外套が一つ揺らめいているだけで薄暗い。けれど、疎らに灯ったテーマパークを一望できる。
操は練習帰りにこの場所で涼む事が多かった。
昼間は人で賑わっている園内も、夜になると違う一面を見せる。静かに落ち着いた閉館後のテーマパークは、いつも本当の自分を曝け出せる様な気がしていた。
「この風景が一番好きなんだ」
夜空を見上げながら、ふとそんな言葉が零れる。
きっと今日は疲れているせいに違いない。そもそも原因は、他ならぬ赤神の所為でもあるのだが――。
柵なしの縁に腰かけると、赤神も並ぶような形で隣に座る。少ししてから、彼は徐に口を開いた。
「俺も静まった大衆の場は好きです。公演を終えた後の劇場なんかは特に」
「公演後の劇場?」
ちらりと横を向くと、赤神は視線をそらし、バツが悪そうに笑う。
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